東京高等裁判所 昭和36年(う)1787号 判決
被告人 高瀬亀吉
〔抄 録〕
所論第一点は、笠原信太郎が、その居住する家屋の西南隅にタイルトタン張りの墻壁類似の工作物を作るに際し、被告人の許諾を得ずに、被告人の賃借して居住する家屋の東南隅の柱に右工作物の下地工作の角材及び外被のタイルトタンを打ちつけ、以つて被告人の右住家に対する占有権の一部を侵害したため、被告人は自力でこれを除去したものであつて、被告人の本件所為は正当な権利行為であると言うにある。しかしながら、笠原の右所為が被告人の住家に対する占有権を一部侵害した不法行為であるにしても、同人の設けた前記工作物を除去するについては適法な他の方法によるべきであり、民法第七百二十条刑法第三十七条所定の場合を除いては、これを擅に損壊除去するが如きは法の許さないところであり、適法な権利行為とは言い得ないのであつて、その工作物が刑法第二百六十条の建造物である限り、同法条に該当する犯罪行為たるを免れないのである。所論はその理由がない。
所論第二点は、被告人が損壊した前記工作物は刑法第二百六十条に云う建造物ではなく、単なる墻壁に過ぎないから、これを建造物であるとなして右法条を適用した原判決は法令の適用を誤つたものであると云うにある。よつて記録を調査するに、被告人が損壊した工作物は、笠原信太郎が同人の居宅の西南隈に南方に突き出して作つた墻壁類似のものではあるが、右居宅に附着しその一部をなす構造のものであつて独立した墻壁の如きものではないことが明らかであるから、これは刑法第二百六十条に云う建造物の一部に属し、従つてこれを損壊した被告人の所為は同法条に該当する犯罪行為であること勿論であつて、原判決には所論の如き法令の適用の誤はない。所論は理由がない。
(兼平 斎藤 関谷)